ARTSAT:衛星芸術プロジェクト
2010年に開始された「ARTSAT:衛星芸術プロジェクト」は、地球を周回する衛星や深宇宙に投入される宇宙機を「宇宙と地球をつなぐメディア」ととらえ、超小型の芸術専用衛星や独自の宇宙機を打ち上げ、そこから得られるデータを使ってインタラクティヴなメディア・アート作品やサウンド/ソフトウエア・アート作品などの制作実験を展開していくプロジェクトである。プロジェクトは、 多摩美術大学と東京大学のコラボレーションを軸に、 多くの異分野からのメンバーによって進められている。
2014年2月28日(日本時間)、H-IIAロケット23号機の相乗り副衛星として、世界初の芸術衛星「ARTSAT1:INVADER(*)」が高度378kmの円軌道、傾斜角65度の太陽非同期軌道に投入された。10cm角、重量1.85kgの1U-CubeSatのINVADERは、その後軌道上で順調に運用を続け、多摩美術大学に設けられた主管制局からのコマンドによって、音声や音楽、詩のアルゴリズミックな生成と送信、写真の撮影と送信、チャットボットによる地上との対話といったさまざまな芸術ミッションを行いフルサクセスを達成した。なお、INVADERにはArduino互換のミッションOBC「MORIKAWA」が搭載され、ウェブブラウザからの衛星運用や軌道上でのプログラム書き換えなど、今日のMaker/Hacker文化を反映したさまざまな工夫が凝らされている。
INVADERは当初の予定より2ヶ月長く軌道上を周回し、2014年9月2日9時47分(日本時間)に大気圏にデオービット(再突入)して消滅した。INVADERの運用中の2014年6月7日から8月31日まで、東京都現代美術館で開催された「宇宙×芸術」展に参加し、これも世界で初めて、運用中の衛星からのデータを用いたメディアインスタレーションを実現した。
ARTSATプロジェクトは、INVADERに続く2号機として、深宇宙彫刻「ARTSAT2:DESPATCH(**)」の設計開発を行った。DESPATCHは3Dプリンタで制作された螺旋状の造形(彫刻)部を有する、包絡域が約50cm角、重量約33kgの宇宙機で、2014年12月3日INVADER同様にH-IIA ロケット(主衛星「はやぶさ2」)に相乗りする小型副ペイロードとして打ち上げに成功した。DESPATCHは、世界で初めて深宇宙軌道に投入された、世界で最も遠い芸術作品となった。DESPATCHのミッションの一つは深宇宙からの宇宙生成詩の送信であり、アマチュア無線局としては世界最長の地球から470万km(月までの距離の約12倍)からの電波の受信に成功した。DESPATCHの運用は2015年1月3日に終了したが、作品は人工惑星として半永久的に太陽の周りを回り続ける。
(*) INteractive Vehicle for Art and Design Experimental Research
(**) DEep SPace Amateur Troubadour’s CHallange
[ARTSATプロジェクト]
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2014年3月 多摩美術大学×東京大学 ARTSAT:衛星芸術プロジェクト